退職金は財産分与の対象に含まれるか
将来支払われる予定の退職金は、財産分与の対象に含まれるのでしょうか。
退職金といえども婚姻期間中の労働に対する対価であり、いわば賃金の後払い的性格を有するものですから、婚姻期間中に夫婦の協力で得た財産として、財産分与の対象に含まれます。
支払う側(退職金を受給する側)からすれば、まだもらってもいない退職金を分与しなければならないというのは納得いかないと思われるでしょう。実際、離婚協議や調停では、退職金は将来支給されるか分からないから財産分与の対象にはならない、という主張はよく見られます。
しかし実務上は、会社の就業規則等で退職金支給に関する規程があれば、支給されない可能性が高いといえるような事情が無い限り、原則として財産分与の対象となると考えられています。
退職金の評価方法
退職金の評価額は、基準日(多くの場合は別居した日)時点で自己都合退職したと仮定した場合の退職金額を、就職から基準日までの在職期間で割り、これに婚姻から基準日までの婚姻期間を掛けた額とするのが原則です。
たとえば、基準日が2022年1月で、自己都合退職した場合の退職金額が500万円、婚姻が2012年1月、就職が2002年4月という場合、在職期間は2022年1月-2002年4月=19年9か月=237か月、婚姻期間は2022年1月-2012年1月=10年=120か月となり、財産分与の対象となる評価額は、500万円÷237か月×120か月≒253万1645円となります。
このほかに、基準日時点で退職したと仮定した場合の金額から、婚姻時に退職したと仮定した場合の金額を引く方法もありますが、実務ではあまり使われていません。
支払い方法
上記のような方法で評価するとしても、実際に退職金が支給されるのは退職後ですから、離婚成立時点ではまだ支給されていないことがほとんどです。
しかし、財産分与は夫婦の協力によって婚姻中に得た財産を離婚時に清算させる制度ですから、未支給の退職金であっても、基準日時点ですでに財産的価値がある以上、離婚と同時、もしくは離婚後すみやかに支払うべきものと考えられています。
どうしても一括で支払うことが難しい場合は、分割払いにしてもらうよう話し合う必要があります。
最後に
以上のとおり、退職金が財産分与の対象となることは実務上は争いはないのですが、支払う側からすれば、まだもらってもいない、もらえるかも分からない退職金を分与しなければならないというのは納得し難い面もあり、これが原因で離婚協議が進まない場合も少なくありません。
また、裁判所の調停手続きにおいてさえ、「退職金は財産分与の対象にならない」などと誤った説明をして、当事者に諦めるよう強く促すといった事例も見受けられます。
しかし退職金は金額が大きく、夫婦の財産の中でも比較的大きな割合を占める重要な財産ですから、安易に対象から外すべきではありません。
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