夫婦間で贈与された不動産は財産分与の対象となるか
夫婦間で贈与された不動産は財産分与の対象となるか

夫婦間で贈与された不動産は財産分与の対象となるか

財産分与とは、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配することをいいます(最高裁昭和46年7月23日判決)。

しかし、夫婦間で、夫(または妻)の専用の財産であると合意した場合は、清算分配の対象から除かれます。

大阪高裁平成23年2月14日決定も、「Dがかつて有していた共有持分以外の持分は,夫婦で形成してきた共有財産といえるが,本件贈与は,Dが有していた部分も含めて抗告人に移転し,本件各不動産の全持分を抗告人の所有としたもので,抗告人が相手方による不貞行為を疑い,現に相手方による不貞行為を疑われてもやむを得ない状況が存在した中で,Cの提案により,抗告人の不満を抑える目的でされたものであることからすると,婚姻継続中ではあるものの,確定的にその帰属を決めたもので,清算的要素をもち,そのような場合の当事者の意思は尊重すべきであるから,本件贈与により本件各不動産はDの有した部分を含め抗告人の特有財産になったと認めるべきである。」としています(*特有財産とは、夫または妻が単独で有する財産のことで、清算分配の対象から除外される財産のことです。)。

当事務所で扱った次の事例も、夫から妻へ自宅不動産を贈与する登記がされ、その後に離婚した元夫が、元妻に対し自宅不動産を含む夫婦共有財産につき財産分与を求めた事案です。贈与の登記がされてしまっている以上、自宅不動産は夫婦共有財産から除外される可能性の高い事案でしたが、当事務所は元夫側の代理人として、元妻の主張する贈与の動機に合理的な根拠がないこと、登記手続に使用された印鑑証明書を取りに行ったのが夫でなく妻であること、妻側の提出した証拠に不自然な点が多々あること等を丁寧に主張立証することで、自宅不動産の名義が元妻に移転されていることを考慮してもなお、夫婦共有財産と認めるのが相当である、との判断を得ることに成功しました。

令和3年(家)第1334号 財産分与審判事件

(中略)

第3 当裁判所の判断

1 本件不動産について

(1)相手方は,本件不動産は,申立人が相手方に贈与した同人の特有財産である旨主張し,審問においても, 「何かの話し合いのときにおまえにやるということを言われた」,贈与の理由について,申立人が「ギャンブルでずっと迷惑をかけたからということで言って」いたと述べている。

  ア この点,確かに,本件不動産の登記原因証明情報(乙17)の申立人の署名押印部分の筆跡は,申立人の手続代理委任状に記載された同人の署名の筆跡と酷似している上,申立人自身も,自らサインをした可能性はあると認識している。また,上記認定事実によれば,申立人は,老後の住まいとして本件不動産を必要とはしていなかった上,本件不動産を出る際,本件不動産の売却手続を相手方と協力して自ら行う意思もなく,当面の生活原資となる年金については、既に相手方の管理下から申立人の管理下に移すことによって確保しており,平成30年時点で,夫婦共有財産である本件不動産の清算を早期に行う必要に迫られていた事情も見当たらないこと,所有権移転に当たって金銭のやり取りがなかったことは当事者間に争いがないことからすれば, 「家が一番大事」だと思っていた相手方が,本件不動産の登記名義を申立人から相手方に変更したとしても,申立人が異論を唱えることはないであろうと認識し,同認識に基づいて申立人の署名押印を得て,移転登記手続を進めた可能性は,否定し得ない。

      また,上記認定事実によれば,平成10年〜19年の申立人の借入当時,申立人が競馬に金を使っていたことは,申立人自身の洪述及び客観証拠から明らかであり,私立大学に通う子らの学費や生活費は,相手方が奨学金や申立人の給与,保険金等からやりくりしていたにもかかわらず,申立人は,小遣いのほかに新聞配達の給与も全額費消しつつ,同人の携帯電話代やガソリン代,食事代に充てるためだけに借りた金額にしては余りにも多すぎる額の借金を,相手方に無断で,相手方名義の借り入れを起こしてまで抱えていたことからすれば,相手方が,申立人のギャンブルによって,同人に「迷惑をかけ」られた事実自体は,優に推認することができ,申立人の収入が減少してきたタイミングで,相手方が,本件不動産が再び申立人の借金の担保として第三者に渡るリスクを回避したいと考えたとしても,不自然ではない。

  イ しかし,申立人において,相手方に本件不動産を贈与する(その後の清算を要しないとの趣旨で相手方に所有権を移転する)意思を有していたか,その意思を相手方に表明していたかについては,相手方自身が,令和3年12月の審判期日において,本件不動産贈与の具体的理由も前後の発言も覚えていない旨述べていること,上記アのギャンブルを理由に,申立人が相手方に本件不動産を贈与したのであれば,相手方が,その言辞を忘れるとは考えがたいことなどからして,上記移転登記の登記原因が「贈与」とされていることを考慮してもなお,疑義が残るといわざるを得ない。

      また,相手方は,本件調停申立後に,本件不動産が財産分与の対象財産となり得ることが判明するや否や,本件借用書に係る債務の弁済を理由に,本件不動産の所有権を相手方の姉であるKとその子に移転しているが,本件借用書に係る債務について相手方が提出する疎明資料や同人の陳述が,同債務の存在を認めるには足りないことは,後述のとおりである。

  ウ 以上によれば,本件不動産の登記名義が現に相手方に移転されていることを考慮してもなお,本件不動産は,財産分与の基準時においては,夫婦共有財産として存在していたと認めるのが相当である

(中略)

2 本件借用書に係る債務について

(1)相手方は,夫婦共同生活のために,本件借用書記載の借入れを行い,本件調停申立時点でもなおその借入金額全額が債務として残っていた旨主張する。

(2)この点,確かに,平成21年当時,申立人の借金の返済により家計に余裕がなかったであろうことは推測できる。また,相手方がK(相手方の姉)から事実上の援助を受けていた可能性を,完全に否定することはできない。

    しかし,審問での相手方の供述によっても,本件借用書①記載の300万円もの借入金を一時に借り入れる理由が不明であること,本件借用書②の借入金の使途についてはインプラント費用とされているが,審問では生活費と述べていること,上記認定事実からうかがわれる平成26年12月,平成27年7月当時の状況に照らす限り,当時働いてもいなかった相手方が,本件借用書①記載の300万円の弁済が一円もなされていない状態で,本件借用書①記載の返済期限と同一日である本件借用書②及び同③記載の返済期限(平成30年12月25日)に,更に250万円もの金員の一括弁済を約することは不合理であること,本件借用書①において担保とされている本件不動産は,本件借用書①作成時点とされている平成21年時点のみならず,本件借用書③作成時点とされている平成27年7月時点でも,相手方個人の特有財産でなく,相手方名義の財産ですらなかったのであって,相手方の主張する「担保権」の実行は不可能であったこと,並びに,本件借用書①の収入印紙の貼付日等を併せ考慮すると,本件借用書は,上記ギャンブルや無断借り入れ等の事情を理由に,申立人に財産を取得させることを快く思わない相手方が,本件調停申立後に,Kへの所有権移転の正当性を基礎づけるべく,真実は借入金債務が存在しないのに,本件引出金の引出時期や,本件不動産の相手方への所有権移転時期に合わせて作成した可能性を否定することができない。

  (3)以上によれば,本件借用書及び相手方の陳述のみをもって,相手方主張の債務が存在したと認めることはできず,ほかに,同債務の存在を認めるに足る証拠はない。

(中略)

5 よって,主文のとおり審判する。

令和4年10月14日

    名古屋家庭裁判所家事第1部