不貞の直接的な証拠がなくても慰謝料請求が認められた事例
不貞の直接的な証拠がなくても慰謝料請求が認められた事例

不貞の直接的な証拠がなくても慰謝料請求が認められた事例

妻X(原告)が、夫Aと不貞関係にあったY(被告)に対し、慰謝料の支払いを求めた事案です。

当初は、AとYのメールを撮影した数枚の写真、Xが当時の出来事を書き留めたスケジュール帳、Aの誓約書(ただし、Yと今後会わない、連絡しないとは書かれているものの、不貞を認めるとは書かれていなかった。)しか証拠がありませんでした。

当事務所は、Aの自白を録音するようアドバイスしたところ、Aは認めたため一応録音には成功したものの、その後裁判になると途端に協力しない、と態度を豹変させました。

裁判官からは、Aが出廷して証言しないとなると、録音だけで信用するのは難しいと言われました。

このように、不貞の直接的な証拠がない困難な事件でしたが、書面や尋問で、Xの主張は客観的証拠と整合しており信用できるものであること、他方でYの主張は客観的証拠と整合しておらず信用できないものであることを丁寧に主張立証することで、無事勝訴することができました。

名古屋地裁令和4年1月13日判決(令和3年(ワ)第345号 損害賠償請求事件)

(中略)

2 争点①(被告とAは不貞関係にあったか)について
(1)被告は,Aと肉体関係があったことを否定し,不貞関係の存在を争うので,上記認定事実の補足説明をしながら,争点①について判断する。
(2)上記1の認定事実は,基本的に原告本人の供述に沿って認定しているものであり,原告の供述の信用性が問題となる。
原告の供述は,原告において,Aの浮気が疑われる行動を,その都度記録した本件スケジュール帳に基づいているものであるが,被告が授受したことを認めている,原告が被告に送信したAが浮気を認めて謝罪したことを伝え,今後関係を終わらせるよう求めるメール(甲7),被告がAに送信した, 「A愛してるよ」と記載したメール(甲8),Aが被告に送信したとても会いたいと伝えるメール(甲9)や,Aが,原告から被告への着信について釈明するメール(乙3)などの客観証拠により裏付けられており,また,被告は知らないとするものの,その体裁や性質から客観性を有すると評価できるAが被告に宛てた「○○愛してる」との投稿を原告に誤送信したライン(甲10)などが存しており,本件スケジュール帳の正確性,原告の供述の信用性を担保する証拠がある。また,被告本人も,被告とAが勤務先を同時に退職した後にも2人で喫茶店や映画館に行き,Aが大阪に単身赴任をした後にも少なくとも1度は直脩会い,メールや電話のやり取りを断片的には続け,愛していると記載したメールを互いに送りあっていたことを認めており,一層,本件スケジュール帳の正確性,原告の供述の信用性を高めている。
被告は,Aと平成21年4月に大阪に行ったことを否定しているが,原告は,Aが大阪に同月5日から7日に大阪に行ったことを本件スケジュール帳に残しており,Aからは学生時代の友人と会う予定と聞がされていたが,後日,Aが被告と浮気して大阪に行ったことを認めたと供述しており,原告が被告に宛てたメールに「あなたとの不倫の関係は大阪に行ったあたりから気づいてました」と記載があるなど,Aから告白を受けたことを裏付ける内容になっており,被告はAと大阪に行ったことが認められるというべきである。
このように,原告の供述は基本的に信用できるものであり,A及び被告は互いに恋愛感情があることを伝えあっており,少なくともAにおいて被告と交際していたと認識を有していたことは優に認めることができる。
(3)上記のとおり,Aが被告と交際していたと認識していたと認められるところ,原告は,Aが単身赴任を終えて帰ってくるに際して,被告と付き合わない約束をしてほしいとの思いから誓約書の作成を求めて,Aに誓約書(甲11)を作成させたと述べているが,その内容自体自然であるし,上記に認定できる経緯からして,Aが交際した事実を認めて誓約書を書いたとの状況とも整合的であり,また,原告が当該誓約書を偽造するまでの事情は見当たらないから,Aが作成したものであると認められ,Aが作成した誓約書が存在することがAと被告の不貞行為を推認させる証拠となるというべきである。
さらに,原告は,誓約書の作成を受けて,原告訴訟代理人に法律相談に行き,被告からもAと会わないとの証拠がほしいという内容の依頼をしようとしたが,原告訴訟代理人と相談した結果,被告に対して慰謝料請求をすることになり,そのための証拠として,Aが被告との関係を認める内容の発言を録音しようとして,通話内容を録音したと述べているところ,その経過は合理的なものと理解できるし,録音された通話内容(甲12の1・2)も自然なものであるから,当該録音は,Aが発言したものであると認められる。
そして,Aにおいて,被告との関係性について,原告に対し,必要以上に深い関係にあったことを虚飾する理由も動機もないから,Aが被告との身体の関係があったことを認めている以上,真実の認識を述べていると認められるというべきであり,身体の関係の有無は誤解するようなものでもないから,事実であると認められる。
そうすると,A自身が,被告と交際をしており,その間に肉体関係を持ったと自白していること、原告が被告に対し,Aと会わないように直接求めているのに,これを無視し,被告はAと会い,電話やメールを継続したことを認めていること,互いに送りあったメールの内容に愛していると直接的に恋愛感情を伝えるものが含まれていることからすれば,Aの自白を裏付ける間接事実があり,また,当該間接事実からも,Aと被告が肉体関係を有していたことが認められるというべきである。
(4)これに対し,被告はAと肉体関係を有していたことを否認し,被告本人尋問においても一貫して否定している。
しかしながら,Aと被告はともに既婚者であって,同時に退職した以降は,二人きりで度々会う必要はないはずである上,原告が明確に被告にAと会わないように求めているのに,これを反故にして年単位という長い期間連絡を取り合っているばかりか,友人関係とは明らかに異なる男女間の関係を窺わせるメールのやり取りが残っており(逆に事務的な関係を裏付けるものは特段提出されていない。),そのようなメール交換を繰り返したことを被告も認めているところ,その理由について合理的な説明がなされていないことからすれば,上記のとおり,Aが肉体関係の存在を自白している事実を覆すことはできないというべきである。
(5)そうすると,被告とAは不貞関係にあったと認められる。
(以下略)