源泉徴収票だけでは不十分な場合もある
養育費や婚姻費用は、原則として、夫婦双方の年収額、子どもの人数と年齢によって決まります。
年収の額は原則として源泉徴収票や所得証明書などの資料から判断するのですが、それだけでは不十分な場合があります。
たとえば、自営業で本来は生活費に含まれるものを経費として申告し所得を少なくしている場合や、親族が経営する会社で勤務しており、額面上の給与以外にも親族や会社から様々な援助を受けている場合などです。
また、親族経営の会社の場合は、婚姻費用や養育費を請求した途端に額面上の給与を減らしてしまう、という事案も多々あります。
次の事例も、妻が夫に対し婚姻費用の請求をしたところ、夫がそれまで行っていた夜勤をしなくなったため給与が減ったなどと主張した事案です。
当事務所は、夫の勤務先は夫の親族が経営する会社であることや、夫は婚姻費用を請求する前月まで夜勤を続けていたにもかかわらず、婚姻費用を請求した途端に夜勤をしなくなった経緯などを証拠に基づき丁寧に説明することで、夫が夜勤をしなくなったのは婚姻費用の額を抑えるための意図的なものである、との判断を得ることができました。
名古屋家庭裁判所 令和3年(家) 第979号 婚姻費用分担申立事件
(中略)
「ウ 相手方の収入は,前記認定事実のとおりであるところ,申立人は,相手方が令和2年10月以降(ただし,同年12月を除く。),夜勤手当の支給を受けていないのは,申立人に支払う婚姻費用を減額するための意図的なものであるから,令和2年1月から同年9月までの平1月給を年収換算した683万6656円を相手方の収入として試算すべきであるなどと主張し,これに対し、相手方は、令和2年度においては、午前9時に勤務を開始し、午後5時にいったん仕事を終えて午後6時頃に帰宅して,夕食を取るなどした後,夜には再度勤務に出て、深夜0時に勤務を開始して,翌日の午前5時頃まで働くという過酷なシフトを繰り返していたことから、身体を壊す前に正常な勤務に戻したものであるから、相手方の収入は、令和2年10月以降の支給額の平物値とすべきであるなどと主張している。
前記認定事実のとおり,相手方は,夜間勤務をするようになった平成29年5月から合和2年9月までは、平成29年6月、平成30年8月から同年11月及び合和元年8月を除き、毎月夜間勤務をしていたものである。
そして,平成31年1月から令和3年8月までの基本給及び固定超過手当の支給額は,前記認定事実のとおりであって,平成31年・令和元年は月額平均32万8417円(394万1000円÷12),令和2年は月額平均32万9000円(394万8000円÷12),令和3年1月から8月は月額平均31万9750円(255万8000円÷8)と,いずれも32万円前後であり、昼間の勤務状況に格別の変動があるとはいえず、また、夜間勤務の中止が相手方の勤務している会社の経営によるものとも考え難い。そして,相手方が夜間勤務を中止した令和2年10月の前月に申立人が本件調停事件の申立てをしている。これらの事情を考慮すると、相手方が令和2年10月以降(ただし,同年12月を除く。),夜間勤務をしなくなったのは,相手方が負担すべき婚姻費用の額を抑えるための意図的なものであると認めるのが相当である。
もっとも,相手方が支給を受けた夜勤手当の金額は,前記認定事実のとおりであって,平成30年の8か月分の平均額は4万6750円(37万4000円÷8), 平成31年・令和元年の11か月分の平均額は6万6455円(73万1000円÷11)であるのに対し、令和2年1月から9月までの支給額の平均は18万0389円(162万3500円÷9)と大幅な増加になっている。令和2年中の夜間勤務の状況に関する相手方の上記主張を考慮すると、相手方が令和2年1月から9月まで続けていた夜間勤務をそれ以降も長期にわたって継続的に続けたとは考え難い。一方、夜間勤務の状況に関する前記認定事実によれば、相手方は,夜間勤務を減らしたとしても,令和元年と同程度の夜間勤務を行うことは可能であると考えられる。
そうすると,本件においては,令和2年9月から令和3年3月までは、令和2年分の収入632万9500円に合和2年1月から9月までの夜勤手当の平均額18万0389円の2か月分を加算した669万円程度を相手方の収入として試算し、令和3年4月以降は,令和元年の収入530万円程度を相手方の収入として試算するのが相当である。」
終わりに
当事務所では、上記事例の他にも、相手方の収入資料に不自然な点がある事案で、適切な証拠を集めて説得的な立証活動を行うことで、多数の事案で婚姻費用や養育費の増額審判や和解を勝ち取った実績があります(→相手の収入が不自然に低い場合の養育費・婚姻費用(2))。
このような事案でお困りの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
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